院長の漢方コラム
きゅうり
きゅうりが道の駅に並び始めると夏が来たと感ずる。今年はもうスーパーの地産地消コーナーに並んでいる。今年はまだ甲府は梅雨入りしていないのだが結構曇りや雨の日が多く、気温が低いため湿に中った者が多く来院している。そういう者にはきゅうりは水腫の薬になる。
きゅうりは胡瓜と書くが、本草綱目啓蒙によれば実が熟すると黄色くなるので黄瓜となり、それが日本での呼び名の「きうり」になったのだという。
昔の子供は夏の日中上半身裸でよく遊んだりしたわけだが、それが家に帰ってくると真っ赤になり痛むので、母親に胡瓜を摺り下ろしたものを肌に塗られた記憶がある者も多いかもしれないが、胡瓜は小便を利する効能の他に清熱の効能も持ち併せている。八谷子良の書いた方輿輗を読むと、どうやら胡瓜は火傷の付け薬として結構な効能があったようである。昔は今と違って一年中胡瓜があるわけではないので、胡瓜を壷いっぱいに入れて蓋で密閉しておき、自然にそれがドロドロになるわけだが、それを胡瓜水と呼んで火傷に備えていたようである。梅村甚太郎の民間薬用植物誌によれば「美作國津山辺りにては胡瓜をくさらして其汁をやけどに塗る。但し其汁は非常に臭きものなり」と書いてあり、やはり胡瓜水は臭いのだそうである。少年の頃にコオロギの飼育でその餌としてきゅうりを虫かごに入れていたのだが、それが腐るとなんとも言えないいやな臭いになり、そのせいでしばらく胡瓜を食べるのが嫌になった事を思い出した。
さて、その民間薬用植物誌に「往昔より焼酎にあたりたるには胡瓜または胡瓜の擣き汁をのむべしと云へり」と書いてあるが、確かに酒を飲んでその翌日に胸が焼ける者は寝際に胡瓜を一本食べてから床につけば胸の具合はあまり悪くならないし、多飲による水毒に因る心腹痞満にも功能があるわけだから、この多湿時期の酒客には必須の品と言っても佳いだろう。
江戸時代の医者のなかには小便淋瀝の患者のために胡瓜を細かく切って乾燥させて一年中使えるようにしていた者もいるし、また有持桂里は胡瓜は少しばかりの量では薬用にならないとも言っている。現代の我々は幸にも一年中食べることが出来るわけだから恵まれているわけだ。胡瓜大いに食べようではないか。まさに胡瓜は地球温暖下での水腫酒客の救世主と呼ぶにふさわしい。
(2022年6月17日 金曜日)