院長の漢方コラム

家庭の必需品、「豆淋酢」

健康に過ごすために、昔はどこの家庭では必ず梅干しがあったものである。梅干は普段食すれば食中毒の難を逃れ、歯が痛いときには黒焼にして歯に詰めたり、怪我をしたときに蟷螂の粉を梅干に溶いてつけたりと他にも様々利用されてきた。そこでもう一つの常備品「豆淋酒(とうりんしゅ)」を紹介したい。

豆淋酒は大豆紫湯(だいずしとう)とも言い、かなり古くからある医書の備急千金要方にも載っている物である。作り方は、①黒豆三合ほど煙が出るほどに三時間くらい煎る。②そこに清酒を一升くらい注いで冷ませば出来上がり。であるが、黒豆はかなり時間を掛けて煎らなくてはならず、結構な手間である。またいくら薬で体に良いからといって今の世は朝っぱらから酒を飲むわけにもいかない。しかし、功能は素晴らしい。飲用すれば腹の膨満は消え、体のむくみもとれる。また小児のチックや大人の痙攣もかなり軽減する。またフケで悩んでいる人はこれを頭に塗ればフケは次第に減ってゆき、たんこぶや癰疽等のはれものに付ければインドメタシンの湿布よりも早く腫れを消す事が出来る。わりと万能な酒であるわけだから、なんとかもっと使えるものにしたい。

そこでまず黒豆を煎る手間を除こうということで山梨の三枝豆店に行ったところ、なんと普通にしっかりと香ばしく煎られた黒豆が有るではないか。あとは酒の問題。酢は古語に「苦酒(くしゅ)」ともいわれ酒の一種とも考えられる。そこで「普通に売っている酢」に三枝豆店の「煎られた黒豆」を入れ一日置けば、見た目紛うこと無き豆淋酒の、まるで高級な赤ワインを思わせる紅色になっているではないか。さて功能は?といえば、これもなんと原典の豆淋酒を越える効果があるではないか。殊に浮腫みを除く効果は称賛に値するものである。

この豆淋酢(とうりんす)は普通の酢の代わりに料理に用いれば酢よりも味になんとも豆の深みのあるまろやかな酢になっていることもまた面白い、今では薬としてでなくとも常に用いる無くてはならない調味料として食卓で大活躍している。この酢は日光に当てると赤色がだんだん薄れてきてしまうので冷蔵庫で保管していただきたい。少しでも皆之役に立てれば幸甚々々。

(2023年6月4日 日曜日)

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