院長の漢方コラム

健康的な食生活

新型コロナなるもの世に流行して早三年経ようとしている。我々は三年前から他者への接触を断つ目的で自宅に籠もる生活を余儀なくされ、メディアとネット環境のみが社会の窓となる、いわゆる巣ごもりの状態が始まった。
当初メディアは新型コロナは肥満の者が重症化すると注意勧告し、さらに巣ごもり生活はカロリー消費が少ないので、なるべく食べる量を減らすことがコロナで重症化しないために必要であると、連日のように報道し続けたのを覚えている。さらに出版業界も断食すると健康になる旨の出版物を次々に出版し始めた。この頃から自称「コロナ鬱」という患者が毎日のように来院するのだが、その大半は少食が原因の栄養失調患者であり、その傾向は今でも続いている。ある時から急に減食を薦める放送はされなくなったものの、今もなお影響だけは残っている。報道というのは恐ろしいものであると思う。

メディアや雑誌に載る、今をときめくモデル体型のすらっと細く伸びた腕脚をみれば、それに憧れる気持は分からなくもない。ましてや、断食すれば健康になり、さらにコロナも重症化しないのであれば、美と健康を保つに一石二鳥というわけだ。

しかし、長期間栄養失調状態になると却って体は浮腫んで太くなり、それが行き過ぎると命を落とす危険がある事はご存じだろうか。食事を殆どしていないのに太って行くという人は、栄養失調の可能性がある。この栄養失調による体の過剰な浮腫みを脚気というのであるが、近頃は脚気の患者もよく見かけるようになった。
戦時中と言えば、厚生労働省が戦後すぐの1946年から調査をしている栄養調査によると、実は戦後の貧困時代よりも現代の私たちの方が、体に必要な三大栄養素の摂取量が少ないという。由々しきかな、注意すべき事である。

ある産婦人科の先生によれば、近頃はあまりに小食な妊婦が増えており、普通は妊娠すると胎児と羊水の分だけ体重は増えるのであるが、却って痩せて行くのだそうである。そうすると、生兒に障害を残す危険があり、実際にそうなっている例もあるという。妊婦に対して以前は体重を増やさないような注意をしていたが、一概にそういうわけにもいかなくなった。当然ながら胎児のからだの健康は母親の食事の質のいかんに懸かっている。後悔先に立たずにならぬ様切に願う。
近所のスーパーマーケットには「健康的な食生活が幸せをもたらす」と、大字で書いてあり、なるほど素晴らしい言葉だと思った。
穀肉果菜が体を作る。「健康的な食生活」とはなんだろうか、人にとって最も大切な食について今一度考える時間を持って欲しいと思う。

(2021年10月20日 水曜日)

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