院長の漢方コラム
甲府開府500年にちなんで
今年は甲府の開府500年記念だそうで、それにちなんで武田信虎の銅像が作られ、堂々とした姿で甲府駅北口広場に立っている。
武田信虎は武田信玄の父親であるが、その信虎によって甲府は創られたということであるので、平成30年この銅像が作られたのである。
甲斐国にはこの信虎の侍医であり、信玄、勝頼、さらには徳川家康やその子の秀忠の病を治した有名な医師がおり、その名を「永田徳本」という。永田徳本は名医で名高かったのであるが、葡萄棚を考案したりと、あらゆるところで才能を発揮した人物である。
近頃山梨大学医学部で漢方の歴史の授業をしてきたのだが、その話をしても学生の反応はほとんどない。どうやら医学部の学生のほとんどがこの武田信虎の存在を知らないのである。さすがに信玄や家康は知っているようであるが、そればかりではなく、徳川秀忠すらその人物を知る学生は少ない。日本の歴史もこの有様であるので、当然中国に元という国があったことすら知らないのである。医学の歴史について語る以前のレベルであることに、授業中であるにも拘わらず、思わず声を何度もうわずらせてしまった。
医学部の学生はいずれ医師になるわけであるが、医師には知識人としての側面にも当然期待されるわけであり、それ故病人も安心して治療を受けられるのだと思うのだが、私は夢でも見ていたのだろうかと今になっても思う。そういえば、最近のテレビ番組に出演している医者の多くは、お笑いタレントと見間違う風貌と発言をしている、いわゆる、ちゃらい者ばかりな気がしてきた。
最後に、授業が終わってから個人的に質問して来た熱心な学生が一人だけいた。
「先生質問したいことがありますが、よろしいでしょうか」
やはり、今の若者も捨てた者では無いと思い、安堵した。
「何でも聞いて良いですよ!」
「えーとですね、今度の試験問題を教えて下さい!」
それ以外質問してくる学生は一人もいない。
彼にも将来テレビ出演の依頼が来るかもしれないと思った。
(2019年2月10日 日曜日)