院長の漢方コラム

屠蘇酒

令和六年もとうとう終わろうとしていますが、今回は屠蘇酒のお話し。

日本では昔から正月に飲む酒の事を特別に「お屠蘇(とそ)」という、なんともオシャレな言い方をしておりまして、特に正月三ヶ日は普段から酒を飲んで母ちゃん連中から「飲み過ぎだ」といつも文句を言われているお父さん輩も、「これは、お酒じゃなくて”お屠蘇”だから是非にも飲まなくてはならねえんだよ」などとのたまい酔っ払う理屈づけをしてのんだものでありますが、このお屠蘇、じつは正月限定の酒の別名などという事ではなく、れっきとした処方なのです。
 お屠蘇とは、屠蘇散という処方が酒に入っている後漢の華陀という名医が考案したという話がよく聞かれます。これは本草綱目によると小品方にそう書いてあるのだそう。日本の屠蘇の事については貝原好古が日本歳事記に詳しく書いてありますのでみてみましょう。
さて、屠蘇の屠はほふるという意味で、蘇はよみがえると読みます。つまり屠蘇とは「邪氣(じゃき)を屠(ほふ)り絶(た)ちて人魂(じんこん)を蘇醒(そせい)せしむる」のだそうです。本草綱目を著した李時珍によると蘇は鬼の名なのだとか、また千金要方を著した医師の孫思邈の庵(いおり)の名が屠蘇というとか、まあいろいろ屠蘇は医と酒を繋ぐようなおもしろいものであります。
 また中国では屠蘇は後漢の時にはすでに一般に用られていたそうでして、その飲み方に一つの決まりがありました。それは年少者から飲むということでして、その事について後漢の詩人は、本当は真っ先に酒を飲みたいのに自分が一番最後に屠蘇をのむなんて残念だなあという詩を詩人という詩人が書き、それがいくつも残って居るそうであります。
 我が国では、嵯峨天皇の弘仁のころから屠蘇の文化がスタート!、しかも正月三が日の三日間、それぞれ少し異なった三種類の酒をのんでいたらしいのです。

一日目、本朝屠蘇、 白朮 桔梗 山椒 防風各一匁 肉桂五分 大黄二分半。
二日目、白散(ひゃくさん) 白朮 桔梗 細辛各一匁。
三日目、渡嶂散(としょうさん) 麻黄一匁今去之 山椒 細辛 防風 桔梗 乾姜 白朮 肉桂各五分 (以上三方典薬頭兼安信濃方也)

とわけて処方してそれを酒に浸して飲む。また、日本の多くの家では何事も年長者から。どちらも長幼の序、養小為大の意には相違なし。アトム薬局大里店から「屠蘇散」が届いきました。このアトム薬局の屠蘇散、中華の屠蘇散とも本朝屠蘇散とも違っていまして、実をいえば和方の三日目に飲む渡嶂散。始めて知ったでしょ。それも御愛嬌。今年もおいしい屠蘇をいただける幸せがここにあります。

(2024年12月26日 木曜日)

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