院長の漢方コラム

江戸時代の本

 ご存じの通り今NHKの大河ドラマ「べらぼう~蔦屋栄華の夢噺(つたやえいがのゆめばなし)」という作品が毎週日曜日に放送されている。これがまた、大変に面白い。
 私はもう何年も前から「校正方輿輗(こうせいほうよげい)」という江戸時代に書かれた医学書の解説を月刊誌に連載している、校正方輿輗とは何かというと文化から天保年間に京都で活躍した医師有持桂里(ありもちけいり)及びその門人たちが著した医書で、全十五巻という長大な医書。その解説を毎月少しずつ、「月間漢方療法」という たにぐち書店出版の漢方専門月刊誌に連載しているのだがそれが毎月結構大変というか一筋縄ではゆかない。
 というのは江戸時代の「医書」の解説とはいっても古医学の知識があればそれで解説を書けるというわけではない。なぜかというと現代人は江戸時代に当たり前だった事柄を全く知らないので書くにあたって江戸の習慣や風俗についての知見も解説として入れなくてはならないのである。そういう訳でそれこそ多種多様なな江戸の書物を読まないとならない。たとえば香月牛山や吉益東洞や香川太沖のような医薬に特化している人が著した書物は言うまでもなく、弥次さん北さんに始まりその他江戸で流行った「心学」や「女郎」や「年中行事」や守貞漫稿までも渉猟し江戸の風俗についての知識をすぐに漏れ出してほとんど残らないザル頭に少しでも貯める努力をしている。
 そうしているとき心学の本の中の絵で○に善とか悪とか心とか気とか書いてある顔を持つ漫画チックな登場人物が出て来る本があった。見た目結構不気味だがまたうまいこと生きてゆくうえで必要な道徳の教えについて書いてある江戸の漫画本なのだ。これを出版したのが大河ドラマの蔦屋重三郎だというのだ。
 心学とは何か気になるなと思う読者もいる事は承知だが、今日は別の話。寛政の改革以来出版規制がかかったため本を出版するのに幕府の検閲を通らないといけなくなるから出版者も検閲する町奉行も大変な労力を強いられることになる。その大変な作業を経て、且つ戦災や震災を乗り越えてその時代の本が僅かだが今に残って居るというのは大変感慨深い。
 私が個人で所有している書物も既に刊行されてから約200年以上を経ているので、虫食いや傷んでいる箇所も少なからずある。しかも私の本の扱いが雑なのでさらに綴じ糸が切れてしまったりする。そういう古書を丁寧な仕事で修理してくれるお店が近所にあるのは有り難い。京都の古本屋で手に入れた松陰醫談(まつかげいだん)という本を修理してもらった時、店主の鈴木さんが云うに、いつの時代かわからないけど前にも修理した跡があったのだそう。傷んだら修理して、また後の時代の人が傷んだところを修理して、それで文化を継承することができるとは、和紙の文化は素晴らしい。
(下の写真は山梨県の明文堂で作って頂いた「校正方輿輗」全十五巻が入る箱の写真です。)

(2025年3月12日 水曜日)

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